ご挨拶

Physician-Scientistのすすめ

徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部

近年、医療研修をされている若い医師の方々の主たる方向は専門医取得という方向に流れています。もちろん医療制度における専門医の充実は非常に重要なことです。しかし、若い方々にはもっと大きな夢を持って、Patient-Oriented ResearchやDisease-Oriented Researchなど臨床に立脚した研究に取り組んでいただきたいと考えています。さらにその成果を臨床に展開し、新たな成因、診断、治療が進めることができるようになるからです。臨床医学の進歩はこのように臨床に基づいた地道な研究、さらにその研究成果を臨床の現場に展開することで進んできました。その流れをとめると、我が国の医療の進歩は大学でのユニークな研究からではなく、他の方針に流されてしまいます。私は大学卒業、臨床研修後より一貫して臨床研究をする場に恵まれています。それは与えられたものではなく、自分から積極的に研究室に出入りし進めてきたものです。

私が臨床研究を始めた1970年の後半は腎臓病でも2つの重要な発展がありました。1つは血液透析療法の確立であり、もう一つは腎臓病診断における免疫組織科学的分析の進歩です。従って、私は迷うことなく、その分野の第一人者である濱島義博教授の京都大学病理学教室に入り研究しました。そこで学んだことは研究手技の厳密な条件設定とそれにより得られる成果の大きさであります。腎疾患の病理学的分類がそれらの結果で証明できることを見いだしました。いままで曖昧であった病理診断が非常にクリアカットに説明できることに気づきました。さらにその病態解析においても沈着している成分を分析することで証明可能でした。

私は1986年にはこのような病態の成因を根本的に解明したいと考え、米国国立衛生研究所のStriker博士の元に留学しました。1992年に帰国するまでの6年間アメリカで研究しましたが、この時期は分子生物学の始まりの時で、分子生物学的解析で種々の病態に関連する分子の意義を解明しました。その間非常に充実した研究生活を送ることができました。1992年に京都大学に帰国後、やり残していた糖尿病性腎症の成因解析を続けています。1999年に徳島大学に参りましたが、テーマ?は一貫して糖尿病性腎症です。その間、腎症の分子機構ばかりでなく、成因に基づいた診断法確立、治療法開発へと進んでいます。糖尿病性腎症の病態が非常に明確に理解されるようになってきています。今後の課題はこれらの成果を如何に世界展開していくかです。私が現在抱えている人生のテーマであります。教室員、関係者の人たちと共同で進めていく所存です。

若い方々が医師となり、どういう方向で歩んでいくかという判断の時、大変重要なことは夢を持ち続けることと信頼関係のある人間関係を作ることです。研究も臨床も一人ではできません。いかに周りの人材に恵まれるか、その人たちと信頼関係を築き、日常業務(臨床、研究、教育)をすすめることが最も大切です。ものごとすべて自分の思い通りに進まないでしょうが、希望を持ち続けることと信頼し合うことを忘れずにやっていけば、人生は必ず開けると信じています。若い皆さんは臨床能力をつけるばかりでなく、その根本病態の解明や次世紀での病態理解の新たな展開をもたらせるようPhysician Scientistを目指していただきたいと考えています。研究の方向性を見失わないように進めれば、臨床医としての能力もさらに飛躍すると確信しています。これからの夢のある人生を謳歌してください。



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